保護猫が気になる妻

田中家

ある冬の日曜の朝、田中家のリビングではいつものように家族がゆったりと過ごしていた。美咲は進路の資料を広げ、亮太はスマホでサッカーの動画を見ていたが、妻はその日、何かに集中していた。スマホの画面をじっと見つめ、時折小さくため息をついている。

「何を見てるんだ?」
コーヒーを片手に近づいた誠一が尋ねると、妻は画面を彼に向けた。

「これ、保護猫のサイトなの。」

画面には、愛らしい猫たちの写真が並んでいた。それぞれに名前や年齢、そして保護された経緯が簡単に書かれている。

「最近、SNSで流れてくるのを見て、ずっと気になってたの。どの子もみんな、新しい家族を待ってるのよ。」


家族会議

その日の昼食後、妻が話を切り出した。

「ねえ、もしこの家で猫を飼うとしたら、どう思う?」

突然の提案に、美咲と亮太は顔を見合わせた。

「猫?かわいいけど、うちで飼えるかな?」美咲が言った。

「うん、僕もそう思う。部活とかで家にいない時間も多いし。」亮太が続けた。

「まあ、世話は主に私がやるつもりだけど…。家族みんなで相談して決めたいと思って。」

誠一は静かに妻の話を聞きながら、ふと考えた。確かに猫が家に来れば、生活が少し賑やかになるかもしれない。しかし、ペットを迎えることは大きな責任でもある。

「お前はどうしたいんだ?」誠一が尋ねると、妻は少し戸惑いながらも答えた。

「正直言うと…迎えたい。でも、家族みんなの賛成がなかったら、諦めるつもり。」


保護猫センターの見学

その翌週、田中家は近くの保護猫センターを訪れることにした。実際に猫たちと触れ合い、どんな環境で保護されているのかを知るためだ。

センターには、さまざまな性格の猫たちがいた。人懐っこくすり寄ってくる子もいれば、警戒心を露わに隅でじっとしている子もいる。スタッフから話を聞きながら、家族それぞれが猫たちに興味を持ち始めた。

その中で、一匹の白い猫が美咲のそばにやってきて、じっと見上げた。

「かわいい…。この子、私になんか言いたいのかな?」

スタッフが微笑みながら説明した。

「その子はミルクちゃん。5歳で少し臆病な性格ですが、人に甘えるのが好きな子です。」

亮太は別の猫と遊びながら言った。

「この子たち、こんなに人懐っこいのに、なんで保護されてるんだろうな…。」

スタッフは少し寂しそうに言った。

「いろんな事情があります。飼い主さんが病気になったり、引っ越しで飼えなくなったり。でも、みんな新しい家族を待ってます。」


家族の決断

家に戻った田中家は、猫を迎えるかどうかで再び話し合った。

「お母さん、本当に飼いたいなら、僕は賛成。」美咲が言った。

「僕もだよ。でも、ちゃんと世話ができるかちょっと不安。」亮太が続ける。

誠一は少し考え込んだ後、静かに口を開いた。

「猫を迎えるのは本当に素晴らしいことだ。でも、家族みんなが責任を持てる状態にならないと、猫にも申し訳ない。お前たちもまだ学校や部活が忙しいし、俺も単身赴任で家を空けることが多い。今はその時期じゃないんじゃないか?」

妻はその言葉に目を伏せたが、やがて静かに頷いた。

「そうね…。ペットを迎えるって、本当に簡単なことじゃないものね。でも、いつか子どもたちが巣立って、自分の時間が増えたら、その時また考えてもいいかもしれない。」

「うん、それがいいかもしれないね。お母さん、私たちがもっと落ち着いたら、必ず一緒に猫を迎えようよ!」美咲が優しく言った。

亮太も「その時は僕もちゃんと手伝う!」と笑顔で続けた。


家族の思い

その夜、妻は保護猫センターで撮った写真を眺めながら、「いつか」という未来の楽しみを思い描いていた。誠一はそっと妻の肩に手を置きながら言った。

「今じゃないだけだ。その時が来たら、お前が思う存分猫と暮らせるように、みんなで準備しよう。」

妻は小さく笑いながら言った。

「ありがとう。きっとその時が来るまで、たくさんのことを学んでおきたいわ。」

ペットを迎えるという夢。それは家族全員の未来の目標となった。その日が来るまで、田中家は家族で支え合いながら、少しずつその準備を進めていくのだった。

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