春の新潟、高校3年生の美咲は、大学進学に向けた学費や生活費の足しにするため、アルバイトを始めた。学校の近くのカフェで週末だけ働くことにし、仕事にも少しずつ慣れてきた美咲だったが、ある日、母親の有紗がリビングでふと声をかけた。
「美咲、アルバイトを始めてから順調そうだけど、ちょっと気をつけておいたほうがいいことがあるのよ。」
「何?」
美咲は少し驚きながら、母の顔を見る。
「『年収の壁』って言葉、聞いたことある?」
「聞いたことはあるけど、よく分からない。何か問題があるの?」
年収の壁とは?
「年収の壁」について、有紗は優しく説明を始めた。
「簡単に言うとね、一定以上の収入があると、家族全体の税金や保険料が増えることがあるの。」
「それって、私がアルバイトで稼ぎすぎると、家計に影響があるってこと?」
美咲は少し不安そうに尋ねた。
「そういうこと。でも、すごく心配する必要はないわ。ただ、少し気をつけておいたほうがいいだけ。」
有紗はさらに具体的に説明した。
「たとえば、アルバイトで年間103万円以上稼ぐと、扶養控除から外れる可能性があるの。それに、130万円を超えると、今度は自分で社会保険料を払わなきゃいけなくなる場合もあるのよ。」
「ええっ、そんなに厳しいんだ。」
美咲は驚きながらも、ノートを取り出してメモを取り始めた。
扶養と税金の仕組み
この話を聞いていた父の誠一も、会話に加わった。
「美咲、扶養っていうのは、親が子どもを税金の面で支えるための仕組みなんだ。お前がアルバイトでたくさん稼ぐと、扶養の範囲を超えて、うちの所得税や住民税が増える可能性がある。」
「お父さんの会社で働いている人にも、お子さんが扶養を外れたことで税金が増えたって話を聞いたことがある。だから、収入の額は計画的に考えたほうがいいな。」
「そうなんだ…。お母さんやお父さんに迷惑をかけたくないし、ちゃんと収入を管理しなきゃね。」
美咲は真剣な表情でメモを続けた。
アルバイトの注意点
母の有紗はさらに、美咲にアルバイトで注意すべきことを伝えた。
「もう一つ大事なのは、アルバイト先での契約内容や、労働時間についてきちんと把握しておくことよ。」
「たとえば、どんなこと?」
美咲が尋ねる。
「お店によっては、シフトの希望を出しても急に変更を求められることがあるわよね。でも、それが頻繁だと、勉強や生活に影響が出るかもしれない。」
「確かに…。この前も急にシフトをお願いされたことがあった。」
「それはお互い様な部分もあるけど、無理して引き受け続けると、自分の負担が大きくなるわ。断る勇気も大事よ。」
さらに、有紗はこう続けた。
「あと、給料明細もちゃんと確認すること。特に時給や労働時間がちゃんと計算されているかどうかを見ておくのが大事よ。」
「そんなにいろいろあるんだ…。アルバイトってただ働けばいいってわけじゃないんだね。」
「そう。でも、初めて社会に出る経験だからこそ、きちんと理解しておくと、将来役に立つわよ。」
有紗は微笑みながら美咲に伝えた。
自分のペースを大切に
その後、美咲はカフェのオーナーに自分のシフトについて相談し、週に3回だけ働くスケジュールに調整した。
「これなら勉強との両立ができるし、収入も計画的に管理できるね。」
美咲はノートに書き込んだ月間の収入予想を見ながら満足げに呟いた。
父の誠一が言った。
「いい計画だな。こうやって収入を管理することを覚えたら、大学生や社会人になったときにも役立つぞ。」
「うん!今のうちにお金のことや働き方を学んでおけば、将来困らない気がする。」
美咲は力強く頷いた。
家族の支え
その夜、有紗はリビングで夫と話していた。
「美咲がしっかりアルバイトと勉強のバランスを取ろうとしてる姿を見て、少し安心したわ。」
「そうだな。これから社会に出る準備として、こういう経験は貴重だ。」
誠一も同意した。
「それに、年収の壁についてきちんと理解してくれたのも大きいわね。私も副業をしてるから、美咲にはお金と働き方について早くから学んでほしいの。」
「大丈夫だよ。有紗のサポートがあるから、美咲も亮太も自分の道をしっかり歩いていける。」
誠一のその言葉に、有紗はほっと胸をなでおろした。
新たな一歩
翌日、美咲はアルバイト先で少しずつ自信を持って働けるようになった。カフェの常連客から「笑顔が素敵だね」と褒められることも増え、働くことの喜びを感じていた。
「年収の壁や働き方のバランスって、すごく大事なんだな。でも、それをきちんと考えながら働けば、もっと楽しくなる。」
そう思いながら、美咲は新しい一歩を踏み出していた。
アルバイトを通じて得られる経験は、ただお金を稼ぐ以上の価値がある。それは、社会の仕組みを学び、自分自身の働き方を見つめ直す機会でもあった。家族の支えを受けながら、美咲は大人への階段を一つずつ上がっていくのだった。
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