弟から聞いた「ふつうの人」という夢
高校3年生の美咲は、リビングで宿題をしていた時、弟の亮太が何気なく話した一言に耳を傾けた。
「最近の子どもの夢、知ってる?『ふつうの人になりたい』っていうのが多いんだって。」
その言葉に美咲は驚き、顔を上げた。
「『ふつうの人』ってどういう意味?」
亮太は肩をすくめながら答えた。
「よく分かんないけど、たぶん大きな成功とか特別なことをしなくても、安定して幸せに生きたいってことじゃないかな。」
美咲はその言葉に戸惑いを感じた。「ふつうの人」とは何なのか。自分が考える幸せとは違う気もするが、どこか共感する部分もあった。
家族で話す「ふつうの人」
その日の夕食、美咲は家族に亮太の話を共有した。
「亮太が、『ふつうの人』が最近の子どもの夢だって言ってたの。」
父の誠一は箸を置いて考え込んだ。
「それって、昔は『医者になりたい』とか『プロスポーツ選手になりたい』って夢が多かったのに、変わったものだな。」
母の有紗は微笑みながら答えた。
「でも、今の子どもたちは、特別であることよりも、安心して生きられることを求めているのかもしれないわね。」
美咲はその言葉に納得しつつも、「ふつうの人」がどう定義されるのか気になって仕方がなかった。
「ふつうじゃない状態」とは何か
翌日、美咲は学校で友達の由佳に「ふつうの人」について尋ねてみた。
「ねえ、由佳は『ふつうの人』ってどう思う?」
由佳は少し考えてから答えた。
「うーん、自分らしく生きられる人かな。でも、それってすごく難しいよね。」
その後、由佳はふと真剣な表情で続けた。
「美咲、私、去年ちょっと『ふつうじゃない』状態になったことがあるんだ。」
驚いた美咲が聞き返すと、由佳はその経験を語り始めた。
「文化祭の準備で忙しすぎて、みんなの期待に応えようと必死だった。頑張れば頑張るほど、自分が消えていくような感覚になって、何が楽しいのか分からなくなったの。」
その話を聞いた美咲は、由佳がいつも輝いているように見えた裏で、大きなプレッシャーを感じていたことに気づいた。
美咲が考える「ふつうの人」
その日の放課後、美咲は図書館でノートを開き、自分の考えを整理し始めた。
「『ふつうの人』って、何だろう?安定した仕事?平穏な家庭?それとも、誰かと比べなくていいこと?」
ノートに書き出された答えはどれも漠然としていたが、美咲の中で少しずつ自分の考えが形作られていった。
「『ふつう』って、一人ひとり違うものかもしれない。」
さらに、「ふつうじゃない状態」についても考えた美咲は、自分らしさを見失ってしまう瞬間こそ、心のバランスを取り戻すサインなのだと気づいた。
家族との再確認
その夜、美咲は家族に自分の考えを伝えた。
「私ね、『ふつうの人』って、誰かと比べるものじゃなくて、自分が幸せだって思える状態なんじゃないかって思ったの。でも、由佳の話を聞いて、『ふつうじゃない』って感じる時も必要なんじゃないかとも思ったの。」
誠一が頷きながら答えた。
「確かにそうだな。誰かと比べて自分の価値を決めるんじゃなく、自分の中で納得できる生き方を見つけることが大事だ。でも、そのためには自分が『バランスを崩した』時のことを知っておくのも大切だな。」
有紗は優しく微笑みながら言った。
「そうね。『ふつうじゃない』時があったからこそ、自分が大事にしたいものが見えてくるのかもしれないわ。」
亮太も同意するように言った。
「自分が大変だった経験が、後で役立つこともあるよね。それがあるから、ふつうのありがたさが分かるんだと思う。」
まとめ:自分にとっての「ふつう」と「ふつうじゃない」
美咲は、「ふつうの人」という夢が、決して小さなものではないと気づいた。それは、他人と比べることなく、自分の幸せを見つけられる生き方を目指すことだった。また、「ふつうじゃない」状態を経験することも、人生において大切な学びの時間だと理解した。
- 「ふつうの人」とは、自分らしく幸せを感じられる生き方
- 「ふつうじゃない」経験は、自分の価値観を深めるためのチャンス
- 他人と比べるのではなく、自分自身の基準を大切にすることが重要
美咲は、これからも自分にとっての「ふつう」を考え続けながら、自分らしい幸せを探していきたいと思った。そして、「ふつう」と「ふつうじゃない」の両方を経験しながら、自分の成長を楽しみにしている。
コメント