将棋から学ぶ「次の一手」の大切さ：誠一が考えた人生の選択

週末の夜、単身赴任先から久しぶりに帰省した私は、息子の亮太とリビングのテーブルを挟んで向かい合っていた。
目の前には将棋盤。ここ最近、亮太は将棋に夢中になっていて、私が帰るたびに「お父さん、将棋やろう！」と誘ってくる。

「よし、今日こそお前に勝つぞ。」

私は盤面を見つめながら、ゆっくりと駒を進めた。亮太はじっと考え込み、真剣な表情を浮かべている。

「次の一手…どうしよう。」

そんな彼の姿を見ながら、私はふと「次の一手」の重みについて考えさせられた。

将棋では、常に「次の一手」を考えなければならない。
それは、単に相手の駒を取ることだけではなく、自分の将来の展開を見据えて最善の手を打つということだ。

「一手一手が、未来につながっている。」

それは、私自身の人生にも当てはまることだった。
仕事でも家庭でも、何気なく選んだ行動が、次の展開に大きく影響する。

単身赴任を決めたのも、家族のためにキャリアアップを図るための選択だった。
今の環境は、過去の「一手」の積み重ねによって生まれたものだ。

将棋の対局中、亮太は時折、焦ったように駒を動かすことがある。

「ちょっと待てよ、今の一手、本当に良かったか？」

そう問いかけると、亮太は少し困った顔をして、盤面をじっと見つめ直した。

「うーん…もっと考えたほうが良かったかも。」

人生でも、何かを決断する時に焦ってしまうことがある。
しかし、慎重に考え、時には立ち止まって再検討することが大切だ。

仕事の場面でも、焦って判断すると、後になって「もう少し考えていればよかった」と後悔することがある。
次の一手を慎重に選ぶことが、将棋だけでなく、人生にも当てはまると改めて実感した。

将棋を指していると、事前に考えていた通りに展開することは少ない。
相手の動きによっては、こちらの計画を変えなければならないこともある。

「予定通りにはいかないことの方が多いんだよな。」

仕事でも、人生でも、想定外の出来事はつきものだ。
それにどう対応するかが、大きな違いを生む。

私は、若い頃は計画通りに物事を進めることにこだわっていた。
しかし、経験を積むうちに、「計画通りにいかないことが普通」と考えるようになった。

それは、将棋で言えば「局面の変化に応じて、最善の一手を選ぶ」ということと同じだった。

対局の終盤、私は亮太に追い詰められていた。
「これは、もう勝ち目がないかもしれない…」

しかし、私はそこで諦めるのではなく、最後まで粘ることを選んだ。

「負けた」と思った時こそ、何かできることがあるはずだ。

これは、仕事でも同じことが言える。
プロジェクトが思うように進まないとき、「もうダメだ」と諦めるのではなく、できることを探し続けることが大切だ。

将棋の対局でも、最後の最後で形勢が逆転することがある。
諦めずに考え続けることが、道を開く鍵になるのだ。

将棋を通じて、私は改めて「次の一手」を考えることの大切さを実感した。

亮太との対局が終わった後、私は静かに盤面を見つめた。

「次の一手をしっかり考えることが、大事なんだな。」

それは、仕事でも家庭でも、人生全般に言えることだった。
私はこれからも、一つ一つの選択を大切にしながら、生きていきたいと思った。