【PTA会長をやれなかった自分を思う】単身赴任の父が胸に抱く、家族と地域との距離感

紺のニットを着た男性 父親・夫の視点

「中学校のPTA役員を引き受けたの」

ある夜、東京の単身赴任先から家に電話をかけたとき、有紗がそう言った。

「えっ、PTA役員?」

耳慣れた言葉のはずなのに、不思議と胸の奥に小さなざわつきが走った。
私が47歳になった今でも、忘れられない出来事がある。

それは、まだ子どもたちが小学生だった頃のこと。
私自身が、PTA会長に推薦されたことがあったのだ。

だが――結局、私はその役を引き受けなかった。
「単身赴任になるから」という理由で、逃げるように断った。

その決断に後悔はない。けれど、引っかかっているものは、今もある。


1. PTA会長を勧められたあのとき

あのとき私は、地元・新潟で暮らしていて、まだ東京勤務の話はなかった。
長女の美咲が小学校の高学年になり、長男の亮太はまだ低学年。

ある日、学年委員をしていた有紗が言った。

「PTAの本部役員で、お父さんをPTA会長に推薦したいって話があるんだけど…どう思う?」

正直、驚いた。
でも、それ以上に、「なんで俺なんかが?」という気持ちが先に立った。

周りからは「誠実で落ち着いた雰囲気がある」と評価されていたらしい。
「サラリーマンで組織も分かっていそうだから安心感がある」とも。

でも当時の私は、仕事も忙しく、
「PTA会長」なんてとても荷が重いと思っていた。

「きっと誰か、もっと適任がいるはず」

そう思っていた矢先、ちょうど東京への異動の打診があった。

それを理由に、「申し訳ないけど、単身赴任になるかもしれないので…」と断った。

それっきり、その話は流れた。


2. やらなかった自分と、今やろうとしている妻

今、有紗が中学校のPTA役員を引き受けようとしている。

保育士としてフルタイムで働きながら、家事もこなし、副業のライティングまでしている有紗がだ。

「大変じゃないのか?」と尋ねると、
「たしかに忙しいけど、亮太のこともあるし、一度は関わってみようと思って」と言った。

その言葉を聞いて、胸の奥にあの日の感覚がよみがえった。

「自分には、あの一歩が踏み出せなかった」

家庭の事情、仕事の都合、タイミングの悪さ――
もちろんそれは本当のことだったけれど、
どこかで「やりたくない」という気持ちが勝っていたのも否定できない。


3. PTA会長になっていたら、何が変わっていたのか

もし、あのとき私がPTA会長を引き受けていたら、何が変わっていただろうか。

もしかすると、学校ともっと密接につながり、
子どもたちの様子をもっと近くで見ることができたのかもしれない。

✔ 美咲の成長を、学校行事の中で直接感じる機会が増えたかもしれない
✔ 亮太の友達関係や、先生とのやりとりの中に、親としての存在感を持てたかもしれない
✔ 地域の保護者たちとのつながりが、家族の安心材料になったかもしれない

もちろん、家庭や仕事に負担がかかったことは想像に難くない。
それでも、「親として、もっと子どもたちと学校をつなぐ立場でいたかった」という気持ちは、今でも少なからずある。


4. 単身赴任という選択と、家族との距離

単身赴任というのは、仕事の都合で選ばざるを得なかったこと。
でもその代償として、「日々の子育てや学校との関わり」から、どこか距離を置くようになってしまった。

✔ 進路相談
✔ 学級懇談会
✔ 保護者面談

どれも基本的に、有紗が一人で対応してくれていた。
私は、「仕事で忙しいから」と、その場にいられないことを正当化してきた。

でも、それが「子どもの育ち」に与える影響は、本当にゼロだったのだろうか。

そして、PTAという立場で「子どもを地域で育てる」役割に、
少しでも関われたかもしれない過去を、どこかで悔やんでいる自分がいる。


5. これから、自分にできることは?

今からPTA会長をやり直すことはできない。
でも、今の自分にできることを考えることはできる。

まずは、PTA役員を引き受けた有紗のサポート。
忙しい中で役を引き受けた妻に、少しでも負担をかけないようにしたい。

✔ 資料作りや文書チェックを、在宅ワーク中に手伝う
✔ PTAの広報や企画に関して、仕事での経験を活かしてアドバイスする
✔ 子どもたちと話す時間を意識的に増やし、学校の様子を聞く

そして、いつか地元に戻るときが来たら、
地域活動にもっと積極的に関わっていきたい。

「今さら…」と言われるかもしれないけど、
地域や学校との接点を持つことは、遅すぎるということはないと思う。


まとめ:やらなかった過去から、今できることを見つける

✔ PTA会長を断った自分には、確かに「後悔」がある
✔ でも、今の自分だからこそ、できることもある
✔ 家族や地域との関わりは、「今この瞬間から」作り直せる

PTA会長をやらなかった自分を責めるよりも、
その経験から何を学び、どう家族と向き合っていくか。

有紗のように、家庭と仕事を両立させながら地域にも目を向ける存在が身近にいることで、
私自身も、「もっと関わろう」という意識を持てるようになった。

家族との距離を感じる日々の中で、
私は少しずつ、父親としての「つながり直し」を始めていこうと思う。

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