冬の新潟、田中家のリビングには湯気の立つこたつと、家族の笑い声があった。ある夜、仕事から帰宅した誠一が、郵便ポストから持ち帰った書類をテーブルに広げていた。そこには「住宅ローン返済状況」という見慣れたタイトルが書かれている。
「どうしたの?」妻がキッチンから声をかける。
「いや、今月のローン返済状況が届いてさ。」誠一は書類を手に取りながら、少し感慨深げに言った。「これでちょうど、ローンの半分を返し終わったんだ。」
その言葉に妻は手を止め、誠一の隣に座った。
「そうなの?なんだか、ここまで来るのもあっという間だった気がするわね。」
田中家がこの家を購入したのは10年前。まだ子どもたちが小さく、家族で新しい生活を夢見て、この土地に決めた。庭付きの一戸建ては家族の希望が詰まった場所であり、当時は夢のようだった。
「最初は本当に払っていけるか不安だったよな。」誠一は微笑みながら当時を振り返った。
「そうね。でも、お互い頑張ってきたわよね。あなたが単身赴任で東京で働いてくれたり、私も少しパートを増やしたりして。」
二人の間に流れる空気は穏やかで、少しの達成感も感じられた。
その夜、家族4人で夕食を囲みながら、誠一はふと子どもたちに話しかけた。
「お前たちは、この家がどうやって手に入ったか考えたことあるか?」
高校生の美咲が首をかしげる。
「どうやってって…普通に買ったんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけどさ。家を買うっていうのは、お金がかかるし、そのお金を何十年もかけて返していくことなんだよ。」
中学生の亮太も目を丸くして聞いていた。
「それって、ずっと借金してるってこと?」
「まあ、そういう言い方もできるけど、それ以上に、こうやって家族で安心して暮らせる場所を作るための大事な投資だ。」
「へえ…。全然そんなこと考えたことなかった。」美咲がぽつりと呟く。
夕食後、リビングで家族全員がこたつに集まった。誠一がリビングの窓を眺めながら言った。
「こうやって家族みんなで同じ家に住んで、安心して毎日を過ごせることが、どれだけ幸せなことか、時々忘れそうになるけどさ。」
妻がうなずきながら続ける。
「そうね。本当にありがたいわよね。この家があるおかげで、子どもたちも好きなように育ってくれて。」
亮太が「まあ、この家は居心地いいよね」と素直に言い、美咲も「自分の部屋があって、本当に助かってる」と笑った。
「お父さんとお母さんが頑張ってるからだね。」亮太が照れくさそうに付け加えた言葉に、誠一と妻は思わず顔を見合わせた。
その夜、妻が布団に入る前、誠一にぽつりと言った。
「住宅ローンの返済なんて、正直最初は不安しかなかったけど、こうやって少しずつ前に進んでいけるのも、家族のおかげね。」
「そうだな。家を買った時は、子どもたちが大きくなるなんて想像もつかなかったけど、こうやってみんなで暮らしてきたから、ここまで来られたんだ。」
二人は窓の外に広がる静かな冬の街を見ながら、しみじみと家族の日々を振り返った。
家を持つという夢を形にするための住宅ローン。それは決して簡単なものではないが、家族と一緒に過ごす日々こそが、それを支える原動力だった。誠一は改めて、この家と家族が与えてくれる幸せに感謝しながら、明日への一歩を胸に刻んだ。
コメント