新潟の春、少し冷たい風が吹き抜ける中、高校3年生になった美咲は、新しいことに挑戦する決意をしていた。それは「アルバイト」だった。
「お父さん、お母さん、ちょっと相談があるんだけど…。」
夕食後、美咲が少し緊張した面持ちで切り出した。
「どうしたの?」と妻が聞く。
「実は、アルバイトをしてみたいんだ。大学に向けて少し貯金したいし、社会経験も積みたいから。」
その言葉に誠一は目を細めた。子どもが成長し、自ら行動を起こそうとしている姿に感心しつつも、少し心配もあった。
「具体的にどんな仕事を考えてるんだ?」と誠一が尋ねると、美咲は照れくさそうに答えた。
「近くのカフェで募集してるのを見たの。学校帰りに働けそうだし、私もやってみたいなって。」
家族の反応
「いいじゃない!カフェなんて美咲にぴったりだわ。」と妻がすぐに賛成する。
一方、誠一は慎重だった。「確かにいい経験になると思う。でも、学校の勉強と両立できるかが一番大事だぞ。」
「うん、その辺はちゃんと考えてるよ。学校のない土日だけにするつもりだし、無理しないようにするから。」
「それならいいかもしれないな。何事も挑戦だ。」誠一は美咲の真剣な表情を見て納得した。
アルバイト初日
数日後、美咲はカフェでアルバイトを始めた。制服を着て鏡の前に立った自分を見て、「よし!」と小さく気合を入れた。
初日は緊張の連続だった。レジ打ちでは緊張してお釣りを間違えそうになり、ホールではトレーを落としそうになることもあった。それでも、店長や先輩スタッフの優しい指導に助けられ、何とか一日を乗り切った。
家に帰ると、美咲は疲れた様子でこたつに倒れ込んだ。
「どうだった?」と亮太がからかうように聞く。
「うーん、大変だった。でも、お客さんに『ありがとう』って言われたとき、ちょっと嬉しかった。」
「それが仕事の醍醐味だよな。」誠一がコーヒーを飲みながら言った。「最初は誰でも失敗する。でも、その失敗を次に活かせるかが大事だ。」
「そうだね。明日も頑張る。」
新しい成長
アルバイトを始めて1ヶ月、美咲は少しずつ仕事に慣れ、笑顔で接客できるようになった。お客さんの名前を覚えたり、おすすめのメニューを伝えたり、少しずつ自信をつけていった。
ある日、カフェの常連客から「君、いつも笑顔で接客してくれるね。気持ちがいいよ」と声をかけられた。その言葉に、美咲は心の中で「やってよかった」と思った。
家族の支え
家では、アルバイトの話が田中家の新たな話題になっていた。
「今日はお客さんに間違えてコーヒーじゃなくて紅茶を出しちゃった!」と美咲が話すと、亮太は笑いながら「それ、俺なら絶対やらかすわ」と言う。
「でも、それをちゃんとリカバリーできるのが大事なんだよ。」誠一が助言する。
「そうね。失敗を恐れずに挑戦するのが大切よ。」と妻も言った。
一歩ずつ未来へ
アルバイトを通じて、美咲は少しずつ社会の厳しさや楽しさを学び、成長していった。その姿を見て、誠一と妻は心の中で「子どもたちがこうして自分の力で道を切り開いていくんだな」と感慨深い思いを抱いていた。
新しい一歩を踏み出した美咲。その背中には、家族の応援と支えが確かに感じられていた。
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