春の新潟、田中家のリビングでは、美咲が参考書を広げながら時計を気にしていた。高校3年生の彼女にとって、受験勉強は時間との戦いだった。しかし、参考書に集中しようとするたびにスマホの通知が気になり、LINEや友達からのメッセージについ反応してしまう。
「勉強しなきゃいけないのに、結局、時間ばっかり過ぎちゃう…。」
美咲はため息をつきながらつぶやいた。
その様子を見ていた誠一が声をかけた。
「どうした、美咲？うまくいってないのか？」
「うん…。やるべきことが多すぎて、何から手をつけていいのか分からない。気づいたら、LINEの返信とかで時間を取られてて。」
誠一は頷きながら、椅子を引いて美咲の隣に腰を下ろした。
「それは、緊急事項と重要事項を混同しているからかもしれないな。」
緊急事項と重要事項の違い
「緊急事項と重要事項？」
美咲が首をかしげる。
「そうだ。緊急事項は、すぐに対処しなきゃいけないことだ。たとえば、LINEの返信や、突然頼まれる用事とかだな。でも、それが本当に君の人生にとって大事なことかというと、必ずしもそうじゃない。」
「じゃあ、重要事項は何？」
美咲が尋ねる。
「重要事項は、君が長期的に達成したい目標に向けて、絶対にやるべきことだ。たとえば、受験勉強や、健康のための習慣づくりなんかがそうだな。でも、重要事項はすぐに結果が出るわけじゃないから、後回しにされやすいんだ。」
その言葉に美咲は少し考え込んだ。
「つまり、私はLINEの返信とか、急に頼まれることばっかりやって、本当に大事な勉強を後回しにしてるってことか。」
「その通りだ。」
誠一は優しく微笑んだ。
夫の体験談
「実は、俺も若い頃、同じようなことをしていた。」
美咲が興味深そうに顔を上げると、誠一は自分の経験を語り始めた。
「会社で働き始めた頃、次々と舞い込む緊急の仕事に追われて、本当にやるべきプロジェクトの準備が全然進まなかったことがあった。結果、期限ギリギリになって慌ててしまい、質の低い仕事を提出することになった。」
「どうやって解決したの？」
美咲が興味津々で尋ねる。
「そのとき、上司から教わったんだ。『緊急のことに振り回されるな。まず自分が一番大事にすべきことをリストアップして、優先順位をつけろ』って。それからは、1日の始まりにその日やるべき重要事項を確認して、緊急なことに惑わされないようにした。」
美咲の課題を整理
「じゃあ、美咲。君にとって今一番重要なことは何だ？」
誠一が尋ねる。
「それは…受験勉強だよね。」
美咲は少し恥ずかしそうに答えた。
「その通りだ。じゃあ、今日の重要事項は？」
「数学の苦手分野を克服するために、問題集を3題解くことかな。それから英語の長文を1つ読んでみる。」
「よし、いい目標だ。じゃあ、逆に緊急事項は何だと思う？」
「LINEの返信とか、部屋の片付けとかかな…。」
「そうだ。それらは、すぐに対処しなくても君の人生に大きな影響を与えないことだ。だから、重要事項を優先しよう。LINEの返信は、勉強の合間の休憩時間にまとめてすればいい。」
家族全員で考える
その夜、美咲の話を聞いていた亮太も口を挟んできた。
「僕もサッカーの練習で似たようなことがあるな。コーチから指示された練習ばっかりやってて、自分が本当に改善したい部分の練習ができてないことがある。」
「そうだな、亮太も練習の中で優先順位をつけるといい。自分が目指す目標に必要なことをまずやるんだ。」
妻も微笑みながら言った。
「私たちだって、日常生活で似たようなことをしてるわね。家事や用事に追われて、本当にやりたいことを後回しにしてしまうことがあるもの。」
実践の一歩
翌朝、美咲は誠一のアドバイスを受けて、1日のスケジュールをノートに書き出した。そして、重要事項と緊急事項を色分けし、まず重要事項から取り組むように決めた。
「今日は数学の問題を3題解く。それが終わるまではスマホを触らない。」
その宣言通り、朝の時間を集中して数学に取り組んだ美咲は、予定していた目標をスムーズに達成することができた。
父の思い
その夜、美咲は誠一にこう言った。
「お父さんのおかげで、今日はすごく充実した気分になれた。重要なことを先にやると、こんなに気持ちが楽になるんだね。」
誠一は満足げに頷いた。
「それが分かれば、きっとこれからもっと上手くやれるさ。人生の中で本当に大切なことを見極めて、そこに集中する。それができれば、君の未来はきっと明るいものになる。」
緊急事項に振り回されることなく、重要事項を優先する。そんな父のアドバイスを胸に、美咲は受験という目標に向けてまた一歩を踏み出した。家族全員がその教えを共有し、それぞれの生活に活かすことで、田中家には新たな前向きな空気が生まれていた。
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