春の夕方、美咲は机に向かって参考書を広げていた。しかし、視線はページの上を滑るだけで、頭に入ってこない。何時間も同じ問題に向き合っているのに、まるで進んでいる気がしなかった。
「こんなやり方で本当に大丈夫なのかな…。目標を達成するって、どういうことなんだろう。」
小さくため息をつきながらリビングに向かうと、父親の誠一が新聞を片手にコーヒーを飲んでいた。美咲は思い切って話しかけることにした。
「お父さん、ちょっと相談があるんだけど…。」
父との対話
「どうした?」
誠一は新聞を畳み、美咲に向き直る。
「最近、勉強しててもなんだか進んでる気がしないんだ。志望校に行きたいって気持ちはあるけど、それだけじゃ足りないような気がして。」
誠一は少し考え込んでから、静かに答えた。
「それはきっと、『目的』と『目標』が曖昧になっているからかもしれないな。」
「目的と目標?」
美咲は首をかしげた。
「そうだ。『目的』は何のためにそれをやるのか、『目標』はそのための具体的なステップだ。この二つを明確にすると、もっと動きやすくなる。」
エンジニアになる夢
「美咲、お前が志望校を目指している理由は何だ?」
「それは…大学でプログラミングやAIを学んで、エンジニアになりたいから。」
「じゃあ、エンジニアになりたい理由は?」
美咲は少し考え込んでから答えた。
「…社会の役に立つ仕組みを作りたい。困っている人を助けられるようなシステムを作れたらって思ってる。」
誠一は微笑みながら頷いた。
「それが目的だ。その目的がはっきりしていると、志望校に合格することが単なる通過点であることが分かるはずだ。つまり、合格は目的ではなく、目標なんだよ。」
「確かに…。大学に行くのがゴールだと思ってたけど、それって途中のステップなんだね。」
目標の具体化
「じゃあ、目的に向かうために、今具体的にやるべきことは何だ?」
誠一が問いかける。
美咲は手帳を取り出し、志望校の模試や過去問のスケジュールを確認した。
「過去問の正答率を80%以上にすることと、数学の苦手分野を克服することかな。」
「それが今の目標だな。そして、その目標を達成するために、さらに小さなステップに分けてみるといい。たとえば、1日1題だけでも苦手な問題を解くとか。」
美咲はペンを走らせながら頷いた。
「うん、これなら少しずつ進める気がする!」
母と弟も巻き込んで
その夜、美咲がノートに目標を書き出していると、母親と亮太も興味を持ったように近づいてきた。
「どうしたの?新しい勉強法?」母が尋ねる。
「ううん、お父さんに『目的と目標を分けて考える』ってアドバイスをもらったんだ。それで、自分の目的が何かをちゃんと考えたら、やるべきことが見えてきた気がする。」
亮太が横から口を挟む。
「へえ、目的か…。僕もサッカーの練習で目的を考えてみようかな。」
美咲は「やってみたら?」と微笑む。
「目的が分かると、目標がスムーズに決まるよ。それで動きやすくなるから。」
新たな一歩
翌朝、美咲は机の前に「エンジニアとして社会に貢献する」という目的を書いたメモを貼り、その下に「志望校合格」と「数学克服」という目標をリストアップしていた。
「これで、ブレずに進めそう。」
少し明るい気持ちで参考書を開くと、昨日までのモヤモヤが嘘のように晴れていた。
父の思い
リビングで新聞を読みながら、誠一は微かに笑みを浮かべていた。
「目的と目標の違いを理解できた美咲なら、きっと大丈夫だ。」
美咲の背中に確かな成長を感じながら、彼は家族の未来に一層の希望を抱いていた。
目的が未来の地図となり、目標がその地図に描かれた道しるべになる。その理解が、美咲にとって新しい一歩を踏み出す大きな力となったのだった。
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