新潟の春、柔らかな日差しが差し込む朝、田中家のリビングでは父親の誠一が新聞を広げていた。その隣で中学生の亮太がスマホをいじっている。
「亮太、ちょっといいか?」
誠一が新聞を置いて亮太に声をかける。
「何?」
亮太はスマホの画面から顔を上げる。
「今度、地域の清掃ボランティアがあるんだ。一緒に参加してみないかと思ってな。」
「ボランティア?なんで?」
亮太は少し戸惑った表情を浮かべた。
「この地域にはお前も俺もお世話になってるだろ?たまにはその恩返しをするのもいいんじゃないかと思ってな。それに、一緒にやれば楽しいかもしれないぞ。」
少し考えた亮太は、「まあ、やってみてもいいけど…。」と渋々ながらも同意した。
初めての地域ボランティア
ボランティア当日、誠一と亮太は朝早くから集合場所へ向かった。地元の公園には、同じように地域の清掃活動に参加する人たちが集まっていた。子どもから大人まで、老若男女が一緒になって笑顔を交わしながら作業の準備をしている。
「おはようございます!」
誠一が明るく挨拶すると、主催者の男性がにこやかに応えた。
「田中さん、今日はありがとうございます。息子さんも一緒に来てくれて嬉しいです。」
亮太は少し照れくさそうに頭を下げた。
作業が始まる
活動は、公園周辺のゴミ拾いや遊具の点検、植え込みの手入れが中心だった。誠一と亮太はトングとゴミ袋を手に、落ち葉や空き缶を拾い集めていく。
「お父さん、こんなにゴミが落ちてるんだね。」
亮太が驚いたように言う。
「そうだな。普段は気づかないけど、こうして見ると結構あるもんだ。」
誠一もゴミ袋を持ちながら答えた。
一緒に作業していた近所のおばあさんが、亮太に話しかける。
「若い人がこうやって参加してくれると、本当に助かるわ。」
その言葉に亮太は少し照れながらも、「頑張ります!」と答えた。
一緒に働く楽しさ
作業を進めるうちに、亮太は次第にボランティアの楽しさを感じ始めていた。同世代の子どもたちと話しながら一緒にゴミを拾ったり、大人たちから感謝の言葉をかけられたりすることで、心が温まる経験をしていた。
「こういうのって、意外と面白いね。」
亮太が言うと、誠一は笑顔で頷いた。
「だろう?人の役に立つことをすると、自分も気持ちよくなるんだよ。」
その言葉に亮太は深く頷き、「また来てもいいかも」とつぶやいた。
作業の後
午前中いっぱいかけて作業を終えると、主催者が簡単な振り返りを行った。
「今日は皆さんのおかげで、公園がとてもきれいになりました。ご協力、本当にありがとうございました。」
参加者全員が拍手をし、笑顔で解散していく中、誠一と亮太も達成感を味わっていた。
「お父さん、これっていい運動にもなるね。」
亮太が冗談っぽく言うと、誠一は笑いながら答えた。
「その通りだ。体を動かしながら、地域にも貢献できる。いいことづくめだろ?」
家族への報告
家に帰ると、亮太は早速母親と美咲にボランティアの話を始めた。
「公園がすごくきれいになったんだよ!おばあさんが褒めてくれてさ、なんか嬉しかった。」
「すごいじゃない。地域に貢献するって、いい経験になったんじゃない?」
美咲が微笑みながら答えた。
「うん。また機会があれば行ってみたいなって思った。」
その言葉に、母親も誠一に目を向けて言った。
「あなたもいい提案をしたわね。家族みんなで参加するのもいいかもしれないわ。」
父親としての思い
その夜、誠一は一人でコーヒーを飲みながら、亮太と一緒に過ごしたボランティア活動を振り返っていた。
「自分の力が誰かの役に立つってことを、あいつも感じられたみたいだな。」
地域とのつながりを深めながら、息子と一緒に汗を流したその時間は、誠一にとっても大切な思い出になった。そして、これからも家族とともに地域に根差した生活をしていきたいという思いを新たにした。
地域ボランティア。それは、単なる清掃活動ではなく、家族の絆を深め、新しい発見と喜びをもたらしてくれる特別な時間だった。そして、亮太にとっても、自分の役割を見つける貴重な一歩となったのだった。
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